大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 平成12年(ネ)233号 判決 2000年11月30日

控訴人兼被控訴人(以下「一審原告」という。)

株式会社味よし

右代表者代表取締役

右訴訟代理人弁護士

成田茂

成毛由和

狐塚鉄世

戸谷博史

大串淳子

被控訴人兼控訴人(以下「一審被告」という。)

株式会社百花コーポレーション

右代表者代表取締役

被控訴人兼控訴人(以下「一審被告」という。)

株式会社アイテック

右代表者代表取締役

被控訴人(以下「一審被告」という。)

株式会社第一広告社

右代表者代表取締役

被控訴人(以下「一審被告」という。)

株式会社第一広告社(変更前商号・株式会社アイエンタープライズ)

右代表者代表取締役

右四名訴訟代理人弁護士

向山義人

岡田泰亮

主文

一  原判決を次のとおりに変更する。

1  一審被告株式会社百花コーポレーション及び一審被告株式会社アイテックは、一審原告に対し、連帯して金五〇〇万円及びこれに対する平成一一年九月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2  一審被告株式会社百花コーポレーション、一審被告株式会社アイテック及び一審被告株式会社第一広告社(本店所在地神奈川県横浜市<以下略>のもの)は、一審原告に対し、連帯して金一四四〇万円びこれに対する平成一二年三月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

3  一審原告の一審被告株式会社百花コーポレーション、一審被告株式会社アイテック及び一審被告株式会社第一広告社(本店所在地神奈川県横浜市<以下略>のもの)に対するその余の請求をいずれも棄却する。

4  一審原告の一審被告株式会社第一広告社(本店所在地東京都渋谷区<以下略>のもの)に対する請求を棄却する。

二  一審被告株式会社百花コーポレーション及び一審被告株式会社アイテックの控訴をいずれも棄却する。

三  訴訟費用は、第一、二審を通じて、一審原告に生じた費用の四〇分の三と、一審被告株式会社百花コーポレーション、一審被告株式会社アイテック及び一審被告株式会社第一広告社(本店所在地神奈川県横浜市<以下略>のもの)に生じた費用の一〇分の一を、一審被告株式会社百花コーポレーション、一審被告株式会社アイテック及び一審被告株式会社第一広告社(本店所在地神奈川県横浜市<以下略>のもの)の負担とし、一審原告、一審被告株式会社百花コーポレーション、一審被告株式会社アイテック及び一審被告株式会社第一広告社(本店所在地神奈川県横浜市<以下略>のもの)に生じたその余の費用並びに一審被告株式会社第一広告社(本店所在地東京都渋谷区<以下略>のもの)に生じた費用を一審原告の負担とする。

四  この判決は、第一項の1及び2に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一当事者の求めた裁判

一  一審原告

1  原判決中、一審原告の損害賠償請求に係る部分を次のとおりに変更する。

(一) 一審被告株式会社百花コーポレーション、同株式会社第一広告社(本店所在地東京都渋谷区<以下略>のもの)及び同株式会社アイテックは、控訴人に対し、連帯して金一二〇〇万円及びこれに対する平成一一年九月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。(遅延損害金の割合は、当審において年六分から年五分に減縮された。)

(二) 一審被告らは、一審原告に対し、連帯して金二億三八二六万二九五二円及びこれに対する平成一一年九月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。(遅延損害金の割合は、当審において年六分から年五分に減縮された。)

2  一審被告株式会社百花コーポレーション及び同株式会社アイテックの控訴を棄却する。

3  訴訟費用は、第一、二審とも一審被告らの負担とする。

二  一審被告株式会社百花コーポレーション及び同株式会社アイテック

1  一審原告の控訴を棄却する。

2  原判決中、一審被告株式会社百花コーポレーション及び同株式会社アイテック敗訴部分を取り消す。

3  右部分に係る一審原告の請求を棄却する。

4  訴訟費用は、第一、二審とも一審原告の負担とする。

三  一審被告株式会社第一広告社(本店所在地東京都渋谷区<以下略>のもの)及び同株式会社第一広告社(本店所在地神奈川県横浜市<以下略>のもの)一審原告の控訴を棄却する。

第二事案の概要

事案の概要は、次のとおり付加するほか、原判決の事実及び理由「第二 事案の概要」及び「第三 争点及び当事者の主張」のとおりであるから、これを引用する。なお、当裁判所も、「本件フランチャイズ契約」、「一審原告マニュアル」、「味よし商事」、「一審被告百花コーポレーション」「一審被告アイテック」「一審被告アイエンタープライズ」「一審被告第一広告社」「元味よし三店舗」「本件競業避止義務」の用語を、原判決の用法に従って用いる。したがって、一審被告株式会社第一広告社(本店所在地神奈川県横浜市<以下略>のもの、すなわち変更前の商号株式会社アイエンタープライズ)は「一審被告アイエンタープライズ」と、一審被告株式会社第一広告社(本店所在地東京都渋谷区<以下略>のもの)は「一審被告第一広告社」と、それぞれ呼ぶことになる。

一  当審における一審原告の主張の要点

1  仮に、一審被告百花コーポレーションが本件フランチャイズ契約上の競業避止義務を負担するものとは認められないとしても、味よし戸塚店、同港南台店及び同大田店の店長であったBが代表取締役となっている同一審被告が宅配寿司営業(店舗経営及びフランチャイズ事業を含む)を行うことは、一審原告の一審被告アイプロモーション、同アイテックに対する競業禁止請求権を違法に侵害する不法行為である。

また、一審被告第一広告社も、実質的親会社として、代表取締役であったFが、一審被告百花コーポレーションの設立及び「寿司百花」事業に深く関与していたことが明らかであるから、同社の右不法行為に加担したものとして、同様の不法行為責任を負う。

一審被告百花コーポレーション及び同第一広告社は、一審原告の一審被告アイテック及び同アイエンタープライズに対する営業秘密保守請求権も侵害した。

2  一審原告が、営業秘密の使用に対して通常受けるべき金額は、次のとおりとすべきである。

(一) 一審被告百花コーポレーションは、一審原告に対し、一店舗について一か月一〇万円のロイヤリティと一か月一〇万円の販売促進費を支払うべきであり、同一審被告は六〇店舗を有しているから、競業禁止期間を参考としてこれらの三年分を合計すれば、四億三二〇〇万円となる。もっとも、当初の「寿司百花」の店舗数が六〇店舗もなかったことは明らかであるから、営業秘密の対価としては、その半額の二億一六〇〇万円を採用すべきである。そのほかに、一審原告には、一店舗につき一〇〇万円の加盟金が支払われるから、その損害額は、六〇店舗で六〇〇〇万円となる。さらに、一審原告には、一店舗につき一〇〇万円の保証金が預託され、その運用利益として年一割が見込まれるから、これによる得べかりし利益は、六〇店舗分の保証金額の三年分の利回り益の半額である九〇〇万円となる。

(二) 仮に、民事訴訟法二四八条により一審原告の損害を算定するとしても、右金額を基準として相当な損害額を認定すべきである。

二  当審における一審被告百花コーポレーション及び同アイテックの主張の要点

1  原告マニュアルの記載事項は、宅配寿司ないし宅配寿司フランチャイズ契約上の、営業秘密ではなく、ノウハウでもない。広く一般人にも知られていることであったり、業種のいかんを問わず事業主が従業員に求めるものを整理、集約したものであったりするにすぎない。

また、一審原告のいう営業秘密なるものは、一審原告が「星の子」から密かに取得したものであるから、法による保護の対象となり得ない。

2  相殺の主張

一審原告は、平成一一年一一月三〇日、多数の報道関係者に対し、一審被告百花コーポレーション及び同アイテックの名誉、信用を著しく傷つける文書(乙第三五号証)を送付した。一審原告のこの行為によって一審被告百花コーポレーション及び同アイテックの被った損害は、五〇〇万円を下るものではない。一審被告百花コーポレーション及び同アイテックは、右債権と一審原告の一審被告百花コーポレーション及び同アイテックに対する債権を対等額で相殺する。

第三当裁判所の判断

一  争点一、二、及び四1(ただし、差止請求の点を除く。)についての当裁判所の判断は、次のとおり付加・訂正するほか、原判決の事実及び理由「第四 当裁判所の判断」の一(争点一について)、二(争点二について)、三(争点四について)1(甲事件について)と同じであるから、これを引用する。

1  四二頁末行から四三頁末行まで(本件フランチャイズ契約に関する当事者の地位の変更についての認定判断の部分)を削る。

2  五二頁五行目の末尾の次に、行を改め、「また、一審被告第一広告社が、一審原告の一審被告アイテックや同アイエンタープライズに対する営業秘密保守義務請求権を違法に侵害したと認めるに足りる証拠はない。」を加える。

3  五三頁一行目から五四頁七行目まで(争点二についての判断の2、3)を削る。

4  五七頁末行の次に、行を改め、次のとおり加える。

「この点に関して、一審原告は、右営業秘密の使用に対し通常受けるべき金額が、店舗のロイヤリティ、加盟金、保証金の運用益等に相当する金額であるとか、仮に、一審原告の損害を民事訴訟法二四八条によって算定するとしても、右金額を基準として認定すべきであるとか、主張する。しかし、一審被告百花コーポレーションは、右営業秘密を知らなければ、寿司百花洗足店や寿司百花品川店の営業を行ったり、フランチャイズ事業を展開したりすることができなかったであろうとは認めることができない以上、右営業秘密の使用に対し通常受けるべき金額が、店舗のロイヤリティ、加盟金、保証金の運用益等に相当する金額であるとか、民事訴訟法二四八条によって算定するに当たっても、右金額を基準として認定すべきであるとか、ということはできない。」

5  五八頁六行目から五九頁三行目まで(争点四中の差止請求に対する判断の部分)を削除して、代わりに、損害賠償についての次の認定判断を入れる。

「(三) 本件全証拠によっても、寿司百花洗足店、寿司百花品川店及び寿司百花池上店の宅配専門寿司営業並びに一審被告百花コーポレーションの宅配専門寿司店舗のフランチャイズ事業による一審原告の損害が、五〇〇万円を超えると認めることはできない。したがって、一審被告百花コーポレーションが、右各店舗及び宅配専門寿司店舗のフランチャイズ事業に関して本件競業避止義務ないしこれと同様の義務を負っているか否かにかかわらず、選択的請求のうち、不正競争防止法四条に基づく損害賠償請求を認容すべきである。」

二  争点三について

1  本件競業避止義務に関する条項の有効性について

本件競業避止義務を定めた条項は、フランチャイズ契約に伴うものであって、禁止する競業の種類を右契約に係る営業と同一分野に限定しており、競業禁止期間が右契約終了後三年間に限定されていることに照らせば、右条項を、憲法二二条一項に違反するとか、公序良俗に反するとか、ということはできない。

2  宅配専門寿司店舗の場合、商品を宅配することから、フランチャイジーは、一度顧客となった人とその住所を把握しているものである。そして、一度顧客となった人は、宅配寿司を好む人である可能性が高いから、この情報を利用して宅配専門寿司店舗を競業すれば有利な立場に立つことができる。本件がこのような性質を持つ宅配専門寿司店舗のフランチャイズ契約に係るものであることに、本件競業避止義務の存在を加えて総合すれば、一審被告アイテック及び同アイエンタープライズは、本件フランチャイズ契約の存続中も、少なくとも、契約に係る店舗と商圏が競合する地域においては、同一分野における営業に従事してはならないとの義務を負っていたものというべきである。

3  一審被告らの、フランチャイズ契約の終了が一審原告の責に帰する事由によるものであるから、一審被告アイテック及び同アイエンタープライズは本件競業避止義務を負わないとする主張について

(一) 証拠(甲一八)によれば、味よし商事は、一審被告アイテックに対し、本件フランチャイズ契約によるロイヤリティの支払をしないこと、及び、寿司百花戸塚店において本件競業避止義務違反の行為をしたことを理由として、平成九年二月二八日に、本件フランチャイズ契約を解除する旨の意思表示をしたことが認められる。そして、後記4(一)の認定に用いる各証拠によれば、一審被告アイテックも、一審被告アイエンタープライズ、一審被告百花コーポレーションと共同して寿司百花戸塚店において宅配専門寿司営業をしていたものというべきであるから、右解除は有効というべきである。なお、味よし戸塚店のロイヤリティが、それまで一審被告アイテック名義で支払われていたことに照らせば、右意思表示において、支払をしないロイヤリティのうちには、味よし戸塚店の分も含まれていることは、右解除の有効性を左右するものではない。

(二) 一審被告アイエンタープライズは、一審原告及び味よし商事が一方的にフランチャイズ契約の内容を変更することを求めたため、一審原告に対して、平成八年一一月一五日に味よし戸塚店のフランチャイズ契約を解除したと主張する。しかし、一審原告及び味よし商事が、フランチャイズ契約の変更を求めたとしても、そのことによってフランチャイズ契約を解除することができるとは解されない(一審被告アイエンタープライズが一審原告及び味よし商事の求めに応じなければ、契約は変更されないのであって、変更を求めたことが契約の不履行となる筋合いのものではない。)。

一審被告アイテックは、甲事件の訴訟が提起されたことを理由として、平成九年一月三一日に味よし港南台店の、同年三月一日に味よし大田店のフランチャイズ契約を解除したと主張する。しかし、一審原告が甲事件を提起したのは、一審被告アイテックが不正競争行為をしたことに起因するものであるから、甲事件の提起によって、一審被告アイテックがフランチャイズ契約を解除することができるとは解されない。

(三) 以上のとおり、一審被告アイエンタープライズ及び同アイテックのした右各解除は無効である。

そして、味よし商事と一審被告アイテックとのフランチャイズ契約は、一審被告アイテックの責めに帰すべき事由により、味よし商事の前記意思表示によって終了したから、一審被告アイテックは、本件競業避止義務を負っている。

また、一審原告と一審被告アイエンタープライズとのフランチャイズ契約は、これが、契約当事者が味よし商事と一審被告アイテックに変更されていたとすれば、味よし商事の右意思表示により終了したものである。仮に、これが、変更されていないとしても、証拠(甲三〇)によれば、平成七年九月ころからは、味よし戸塚店に係るフランチャイズ契約のロイヤリティ等は、味よし商事により請求され、この請求の主体に対して特段の異議が出されることもなく、これに対応する支払がなされていることが認められ、右事実に、味よし商事は、一審原告のフランチャイズ本部が独立したものであって、「味よし」のフランチャイズ・チェーンのフランチャンザーとしての事務処理を行っていたものであること、後記4(一)及び(二)のとおり、一審被告アイエンタープライズ、同アイテック及び同百花コーポレーションが、味よし戸塚店、同港南台店、同大田店及び元味よし三店舗の営業に関して信義則上同視し得ることを加えて総合すれば、一審原告と一審被告アイエンタープライズとのフランチャイズ契約は、やはり、味よし商事の右意思表示により終了したものというべきである。

4  一審被告らの本件競業避止義務ないしこれと同様の義務違反の有無について

(一) 証拠(甲一七、二七、三〇ないし三五、三九(枝番のあるものはそれも含む、以下同じ。)、証人F(原審)、一審被告百花コーポレーション代表者(原審)及び弁論の全趣旨を総合すれば、以下の各事実が認められる。

(1) 一審被告らは、平成七、八年ころ、F親子(F、C、B)の同族会社であった。一審被告アイエンタープライズは、昭和五三年ころ設立された会社であって、平成七、八年ころの代表取締役はF、代表権のない取締役は、C、B、G、Hであり、味よし戸塚店に係るフランチャイズ契約が成立したころは、代表取締役であるFが、休眠会社であると述べるような状態であった。現在の代表取締役であるIも、Fの親族である。一審被告アイテックは、味よし港南台店についてのフランチャイズ契約締結の約三週間前である平成七年一〇月二五日に設立された会社であり、平成七、八年ころ、代表取締役はC、代表権のない取締役は、B、F、Gであった。一審被告百花コーポレーションは、平成八年七月一〇日に設立された会社であり、平成八年ころ、代表取締役はB、代表権のない取締役は、F、Cであった。

(2) 味よし戸塚店の店長であったBは、一審被告アイテックが平成一〇年六月ころまで同店についての保健所の営業許可を受けていた、と認識している。

(3) 味よし港南台店に係るフランチャイズ契約の締結の際に、一審被告アイテック(現実に締結交渉をしたのはF)側は、一審被告アイエンタープライズが契約当事者である味よし戸塚店に係るフランチャイズ契約の存在を根拠に、味よし港南台店が「二店舗目である」ことを理由として保証金の免除及びロイヤリティの減額を要求し、実際に免除及び減額を受けた。また、味よし大田店に係るフランチャイズ契約についても、一審被告アイテックが支払うロイヤリティが、同様に味よし戸塚店の場合と比べて減額されている。

(4) Bは、一審原告のフランチャイズ・システムを宣伝するビデオにおいて、味よし戸塚店の店長として出演し、味よし港南台店を「二店目のオープン」として説明している。

(5) 味よし港南台店に係るフランチャイズ契約の締結の際、FとCは、味よし商事に対し、今後「味よし」のフランチャイズ店舗はいずれも一審被告アイテックが経営する旨述べた。そして、味よし港南台店に係るフランチャイズ契約が締結された後、平成七年一一月分からのロイヤリティは、請求書上は、「味よし戸塚店」、「味よし港南台店」各別に請求されている(「味よし大田店」に係るフランチャイズ契約の締結後は、同店も別に請求されている。)のに、支払は、一審被告アイテック名義で一括して行われている。

(6) 味よし戸塚店と味よし港南台店は、それぞれの営業主体は法人としては異なるはずであるのに、いずれも店長がBである。

(7) 一審被告百花コーポレーションの代表取締役であるBは、一審被告アイエンタープライズがフランチャイジーとなった味よし戸塚店の店長として、控訴人側の研修を受けた者である。

(8) 元味よし三店舗は、宅配専門寿司の営業を、当初は、一審被告百花コーポレーションのフランチャイジーとして行っていた。これに対して、一審原告は、平成一〇年一月ころ、一審被告アイテック及び同アイエンタープライズに対し、本件競業避止義務を被保全権利とする、元味よし三店舗の営業差止めの仮処分を申し立て、審尋を経て、同年六月二日に、金二〇〇〇万円の立担保を命じる決定がなされた(ただし、一審被告アイテックに対する寿司百花港南台店、同大田店に関するもののみである。)。ところが、一審被告百花コーポレーションは、それまで一審被告アイテックないし同アイエンタープライズの受けていた営業許可に代えて、同月三日ないし一一日に、自己を営業主体とする右各店舗の営業許可申請を所轄保健所に対して行い、同月一〇日から一六日にかけてその許可を得た。そして、一審被告アイテックないし同アイエンタープライズは右許可証を右仮処分裁判所に提出し、一審原告の仮処分申立ては、寿司百花港南台店及び同大田店の営業を行っているのが一審被告百花コーポレーションであることを理由として却下された。

右営業許可名義変更の理由について、一審被告百花コーポレーションの代表者であるBは、代表者本人尋問において、「ちょっとわからないですね」などと供述し、明確な説明をしない。

(9) 一審被告百花コーポレーションは、フランチャイジーとなることを希望する者に対して「寿司百花」のフランチャイズ制度を説明するビデオにおいて、ケースにはCを「寿司百花代表取締役社長」と表示し、「社長インタビュー」として、Cに「株式会社百花コーポレーション代表取締役」との肩書表示の下でインタビューに答えさせている。

(二) 以上の事実によれば、F、C、Bは、味よし戸塚店、同港南台店、同大田店及び元味よし三店舗の営業に関して、同族会社である一審被告アイエンタープライズ、同アイテック、同百花コーポレーションを自在に使い分けて利用しているにすぎないものであって、右一審被告三者は、右営業に関しては信義則上同視し得るものと認められる。

そうすると、一審被告百花コーポレーションも、少なくとも、味よし戸塚店、同港南台店、同大田店及び元味よし三店舗の営業に関しては、本件競業避止義務と同様の義務を負担しているものというべきである。

したがって、右一審被告三者は、本件競業避止義務ないしこれと同様の義務を負担しており、右義務に反して、一体として、相互に加功しあいながら元味よし三店舗の営業を行っているということができる。

(三) 証拠(甲一二、三九)及び弁論の全趣旨によれば、一審被告第一広告社は、平成七、八年ころ、F親子の同族会社であって、その代表取締役はFであったこと、Fは、一審被告第一広告社が一審被告百花コーポレーションの親会社であると明言したことがあること、一審被告百花コーポレーションは、寿司百花のフランチャイジー希望者に対する販売促進ビデオにおいて、「寿司百花の特徴」として、「本当は広告代理店」であり、「広告代理店の飲食事業部」であると述べていることが認められる。しかし、一審被告第一広告社と一審被告百花コーポレーションが親子会社であり、一部門が独立したものという関係があるとしても、それだけで直ちに、一審被告第一広告社が、一審被告百花コーポレーションと共同して、寿司百花戸塚店、同港南台店及び同大田店の営業を行っているとか、一審原告の一審被告百花コーポレーションに対する競業禁止請求権を侵害したとか、ということはできないし、他に、これを認めるに足りる証拠はない。

したがって、一審原告の一審被告第一広告社に対する請求は、その余について判断するまでもなく、理由がないものといわざるを得ない。

三  争点四(一審原告の損害)の2(乙事件)について

宅配専門寿司店舗の場合、商品を宅配することから、フランチャイジーは、一度顧客となった人とその住所を把握しているものである。そして、一度顧客となった人は、宅配寿司を好む人である可能性が高いから、この情報を利用して、同一の地域内において宅配専門寿司店舗を競業すれば有利な立場に立つことができる。特に、いったんフランチャイジーとして顧客を獲得しておき、フランチャイズ契約が終了した後、同一事業者が同一場所で宅配専門寿司店舗を継続して営業した場合には、従来の顧客を確保しやすく、更に有利な立場に立つことは明らかである(ちなみに、証拠(甲一五)によれば、一審被告百花コーポレーションは、そのフランチャイジーに対して、フランチャイジーが得た顧客データは一審被告百花コーポレーションに帰属するものであってフランチャイジーに帰属するものではないと明確に説明している。)。そして、このようにして、元フランチャイジーがフランチャイズ契約終了後も競業をしている場合、その付近において新たにフランチャイジーとなれば、右元フランチャイジーが競業をしていない場合に比べて、売上が少なくなることが明らかであり、そのためにフランチャイジーを獲得することも困難となることを容易に推認することができる。また、フランチャイジーとなった者の売上が少なければ、一審原告のフランチャイズ事業にも悪影響を及ぼし、フランチャイジーを獲得することの困難な要因となることもまた明らかである。一方、証拠(甲一ないし三)及び弁論の全趣旨によれば、味よし戸塚店のフランチャイズ契約において、一審原告に支払われていた加盟金が一〇〇万円、ロイヤリティが一か月二〇万円、味よし港南台及び味よし大田店の各フランチャイズ契約において、一審原告に支払われていた加盟金が各五〇万円、ロイヤリティが一か月各五万円、販売促進費が一か月各五万円であったこと、一審原告は、他のフランチャイジーからも、同程度の加盟金、ロイヤリティ及び販売促進費を得ていることが認められるから、獲得できるはずであったフランチャイジーを獲得できなかった場合には、一審原告は、同額の売上を失ったものということができる。

そして、証拠(甲一六、二九、四二)及び弁論の全趣旨によれば、現実に、味よし港南台店の営業区域の相当部分については、一審原告のフランチャイジーが営業することができていないこと、味よし戸塚店の営業区域には、平成九年六月ころから、一審原告のフランチャイジーが営業しているものの、その売上額は、平成七、八年ころの味よし戸塚店と比較して一か月当たり約一五〇万円少ないこと、味よし大田店の営業区域では、以前隣接区域を営業区域としていたフランチャイジー等が営業をし、寿司百花大田店と競合していること(ただし、営業区域が異なるため、売上を単純に比較することはできない。)が認められ、これらの事実によれば、一審被告百花コーポレーション、同アイテック及び同アイエンタープライズの競業義務違反行為により、一審原告には損害が生じたことが認められるけれども、損害の性質上、その額を立証することが極めて困難であるといわざるを得ない。

よって、以上の事実及び弁論の全趣旨に基づき、民事訴訟法二四八条により、相当な損害額を一四四〇万円(味よし戸塚店、味よし港南台店及び味よし大田店に係るフランチャイズ契約におけるロイヤリティ及び販売促進費の三年分に相当する。)と認める。

そして、右一審被告らが競業避止義務に違反した期間を考慮すれば、右損害は、遅くとも平成一二年二月二九日までには発生していたものと認められるが、全損害について、それ以前に発生していたものと認めることはできない。

したがって、乙事件における一審原告の一審被告百花コーポレーション、同アイテック及び同アイエンタープライズに対する債務不履行に基づく損害賠償請求は、一四四〇万円及びこれに対する平成一二年三月一日から、支払済みまでの民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由がある。

四  当審における一審被告百花コーポレーション及び同アイテックの主張に対する判断

1  一審被告百花コーポレーション及び同アイテックは、一審原告マニュアルの記載事項は、広く一般人にも知られていることであったり、業種のいかんを問わず事業主が従業員に求めるものを整理、集約したものであったりするにすぎないと主張する。しかし、飲食店等の経験のない者が宅配専門寿司店舗を初めて営業するに当たり、身につけ、知っておくべき基本的事項を取捨選択し、それを具体的に分かりやすく説明するという目的のもとに、選択され、まとめられた情報として、一審原告マニュアルの内容が公然と知られていたと認めがたいことは、原判決第四の一3(三)の認定のとおりである。その個々の基本的事項を知っている者が存在したとしても、そのことをもって、一審原告マニュアルの記載事項が、公然と知られていたことになる筋合いのものではない。

証拠(乙三四)によれば、一審原告の経営者が、一審原告の従業員の一人を宅配寿司の直営チェーンをしていた「星の子」に忍び込ませ、やっていることを勉強させた、「星の子」には、出前の感覚はあったが、宅配の感覚はなかったと述べていたことが認められるけれども、そこで「勉強させた」ことが、一審原告マニュアルであると認めることはできず、他に、一審原告マニュアルの記載事項について、一審原告が「星の子」から密かに取得したものであることを認めるに足りる証拠はない。

2  相殺の主張について

証拠(乙三五)によれば、乙第三五号証の文書は、原判決について、一審原告の一審被告百花コーポレーションに対する不正競争防止法に基づく請求の基本的な事実関係と、その請求について五〇〇万円の損害賠償請求が認容されたことを報道関係者に報告し、一審原告の根幹の主張を裁判所に認めていただいたことを感謝する等という感想を述べた内容のものであることが認められる。公開法廷で行われる判決という事柄の性質上、判決があったこと及びその内容を報告することは、特段の事情のない限り、違法性を欠くものというべきである。乙第三五号証の文書に、原判決に対する一審原告の感想(そのこと自体は、一審被告百花コーポレーション及び同アイテックの名誉や信用を毀損するものとは認められない。)を付加したことを、特段の事情ということはできないし、他に、右特段の事情を認めるに足りる証拠はない。

したがって、仮に、一審原告が、平成一一年一一月三〇日に乙第三五号証の文書を多数の報道関係者に送付したとしても、そのことをもって、一審被告百花コーポレーション及び同アイテックの名誉、信用を違法に毀損したということはできない。

よって、一審原告が不法行為を行ったことを前提とする一審被告百花コーポレーション及び同アイテックの相殺の主張は、採用することができない。

第四結論

以上によれば、一審原告の本訴請求(ただし、不服申立の対象となっていない差止請求を除く。)は、主文第一項の1及び2の限度で理由があり、その余は理由がないことが明らかである。よって、一審原告の控訴に基づき、右と結論を異にする原判決を主文第一項のとおりに変更し、一審被告百花コーポレーション及び同アイテックの控訴を棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法六七条、六一条、六四条、六五条を、仮執行の宣言について同法二五九条を各適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 山下和明 裁判官 山田知司 裁判官 阿部正幸)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例